黒海諸国のポリフォニー-鳥、川、故郷  チェルノブイリの荒廃

ジャワにいるが、時より黒海周辺の国に思いを馳せている。

フィリップ・クテフ・ブルガリア国立合唱団によるMalka Moma(幼い娘)。数多いブルガリアン・ヴォイスの中で、とても素朴ながら繊細で奥深く、何度聴いてもDNAに直接響き渡ってくるようだ。
YTにブルガリア語(アルファベット表記)と英語の歌詞が添えられているが、リフレイン部分が省略されているので、歌通りに書き起こしてみた。僭越ながら、和訳もしてみた。

Малка мома
музика Нели Андреева и Георги Генов
солистка Нели Андреева
(ブルガリア語Bulgarian)

Malka moma si se Bogu moli:          Day mi, Boże, oczi Golwbowi,
Day mi, Boże, oczi Golwbowi           Day mi, Boże, kriltsa sokolovi,

Day mi, Boże, kriltsa sokolovi          Da si vozna otvad beli Dunav,
Da si vozna otvad beli Dunav           Da ci najda momcze spored mene,

(the choir part)
Bog i dade kriltsa sokolovi            Ta si nayde momcze spored neja
Ta si nayde momcze spored neja

Malka moma
muzika Neli Andreeva i Georgi Genov
solistka Neli Andreeva
(English)

a young girl is praying to god.          please god give me eyes of a dove,
please God give me eyes of a dove,      please god give me wings of a falcon,

please god give me wings of a falcon,     so I can fly over Danube river,
so I can fly over Danube river,          so I can find a boy whom I love.

(the choir part)
and God gave her wings of a falcon.      and she found a boy whom she loves.
and she found a boy whom she loves.

マルカ・モマ(幼い娘)
音楽 : ネリー・アンドレエヴァ&ゲオルギ・ゲノフ
ソリスト : ネリー・アンドレエヴァ

幼い娘は神に祈りを捧げている         どうか私に鳩の目を与えてください
どうか私に鳩の目を与えてください       どうか私にハヤブサの翼をください

どうか私にハヤブサの翼をください       さればドナウ川を飛び越えられる
さればドナウ川を飛び越えられる        されば私が愛する少年を見つけ出せる

(コーラス)
神は彼女にハヤブサの翼を与えた       そして彼女は愛しい少年を見つけた
そして彼女は愛しい少年を見つけた


4つの句(最後は3句)が1節を構成している。2句目の歌詞を3句目も繰り返す単純な循環だが、ズレていくリードボーカルとコーラス(地声唱法の低音たまらん)のハーモニーが、神秘的な響きを作り上げている。
ネリー・アンドレエヴァ(vo)をはじめとした合唱団は、2007年に来日公演。ちなみにネリーは当初、自分の声の才能に気づかず、ピアノとギターの練習に明け暮れていたというのだから、人間どこでどうなるか分からない。
小泉文夫は、ブルガリアでも精力的に民謡を採録している。これら素朴な民謡に近代的なコーラス要素を取り入れ(小泉氏解説)、「ブルガリアン・ヴォイス」に昇華させたのがフィリップ・クテフだ。

*チェルノブイリのウクライナ

黒海周辺国では西のブルガリア、東のグルジア(ジョージア)、北のウクライナで多くのポリフォニー(多声音楽)が伝承されている。


ウクライナの民族音楽を詳しくは知らないが、Oi tam na goriを聴いた時は正直、目鼻から水どばーッだった。ロシア色が濃いが、ブルガリアとは一味違った、なにかロシアに抑圧されながらも生き抜いてきた、一筋の民衆の叫びを感じる。

ウクライナの代表的楽器バンドゥーラbandura
大きいものでは63弦もある


.
ご存じ、ウクライナにはチェルノブイリЧернобыль/Chernobyl原発がある。事故から四半世紀を迎える(今月26日)いまも、半径30キロ以内は一般者立ち入り禁止である。村々は消え、廃墟だけが残った。
ブルガリアとグルジアは、チェルノブイリから約900キロ。事故当時、非常に危険な濃度の放射線汚染範囲は半径700キロに及んでいた。

ひとたび惨事が起きれば、川が、空が、鳥が、人が汚染される。この地域の大地から、美しいポリフォニーの響きも消え失せる。歌う者たちの声が、肉体が失われる。死の灰飛散を防ぐため、4平方キロもの森が埋め立てられた。川岸がセメントで覆い尽くされた。

例え、物理的に深刻な被曝がなかったとしても、人々は一生、苦悩を背負う。民族の誇りが汚染され、何百年と築き上げられてきた文化そのものが凌辱される。一時的な利便追求のために、失う民族の尊厳・遺産の代償は計り知れない。

民族の将来、子孫にも歪みをもたらす。遺伝子への影響はいわずもがな、である。ウクライナ国立チェルノブイリ博物館にはいまも、奇形豚の標本が展示されている(ref.wikipedia)。展示されてなくとも、ヒトだって、だ。チェルノブイリで野生動物は繁殖しているそうだが、突然変異の有無、生態系への影響、生物個体の寿命変化は時を経なければ確証しようがない。生態系が復活しても、感染動物の圏外への移動流出が必ず問題視される。


最後に、南アでHIV母子の支援活動SINGを続けているアニー・レノックス(eurythmics)の言葉を思い起こした。その言葉を借り、閉めとする。

「目を覆いたくなることばかりだ。でも彼らを片隅においやらずに、向き合っていかなくちゃ」

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(追記)
グルジアの素晴らしいポリフォニーも見つけました。

基本リズムを刻むヨーデルと、これに絡む高音のヨーデル。
それぞれの組に呼応する形で合唱が進み、大変ユニークだ。
徐々に早くなっていく様子はどことなく、回教徒スーフィズムのジクル(神名の連唱儀式)を思い起こさせる。

About Yoshi Maeyama

Devotee of an anthropologist, S.Ann Dunham, translated her dissertation book "Surviving against the Odds - Village Industry in Indonesia" into Japanese. Graduate student in Gadjah Mada University. http://www.myspace.com/ammaeya/blog
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3 Responses to 黒海諸国のポリフォニー-鳥、川、故郷  チェルノブイリの荒廃

  1. Kelly says:

    以前からブルガリアン•ヴォイスのファンでしたが、先日、アンドレーエバさんの歌うこの歌を初めて知り、それからというものヘヴィ•ローテーションが止まりません。歌詞を何としても知りたい!と思っていたところ、こんなご親切な方がいたなんて…感動です。ありがとうございました!!

    • Kellyさん、コメントありがとうございます(長らく、放っておいてスミマセン)。
      僕にとってもこの歌は、人生のお気に入りベスト10に入ること、まず間違いなし!
      Malka Momaは、ブルガリアで大衆に受け継がれている歌のようですが、アンドレエヴァらの手によるこのアレンジは秀逸と言いますか、唯一無二の素晴らしいコーラスですよね。
      とり憑かれたように歌詞をまとめてみたのですが…人様のお役に立つなんて、思ってもみませんでした。

      ちなみにご存じかもしれませんが最近、アンドレエヴァさんはfacebookにはまっているようです。
      (一度、彼女から簡単なレスを貰ったこともありました・笑)
      ここにアップされている、彼女が熱唱しているポピュラー音楽ビデオにも聴き入ってしまいました。

    • Kellyさん、昨年2011年のクリスマスで、ブルガリアにてマルカ・モマが上演されました。
      Българската Коледа – Хорът на НФА “Филип Кутев” : http://youtu.be/T64FD13T5TM
      10年以上経っても変わらぬ、ネリーアンドレエヴァらフィリップ・クテフ合唱団の透明な、しかも力強い歌声に鳥肌が立ちました。

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