農村を翔けたオバマの母-インドネシアの民と歩んだシングルマザー【2】フェミニスト =変わった親友同士「宇宙人」

「なぜ依頼した原稿を提出できないの!」

1981年当時、有数の社会科学ジャーナル「プリズマ」の編集委員を務めていたジュリアは、11歳年上のアンに怒鳴りつけた。アンは、農村での女性の役割に関する寄稿を請けていたが、締め切りに間に合わなかった。米フォード財団での仕事が急きょ増えてしまったためだ。

バティックで作ったムームー姿のアン(左)と抱き合うジュリア=Julia Suryakusuma提供

バティックで作ったムームー姿のアン(左)と抱き合うジュリア=Julia Suryakusuma提供

ジュリア・スルヤクスマ(62)。インドネシア人女性作家で、有力英字紙ジャカルタ・ポストでは専属コラムニストを務めている。フェミニスト(女権論者)で、ペンで女性の地位向上を訴えてきた。アンとの最初の思い出は原稿落ちをめぐる口論だったが、歯に衣着せぬ率直な側面を互いに知った二人は「腹を割って話せる相手」として、生涯の友に。女権だけでなく差別、偏見など社会問題についても話が尽きなかった。「職業や性格は違っていたが、社会正義では共鳴した」

 

■女権向上の実践者

当時、アンはジャカルタにあるフォード財団東南アジア支部に勤め始めたばかりで、女性と雇用促進プログラムの責任者を任された。「実践するフェミニストだった」とジュリアは評する。それは欧米の学者にありがちな、西洋の基準にはめ込むものではなく、インドネシアの地域社会と文化に即した「女性の地位向上」だった。アンが研究していた経済人類学にも通じるものがあった。

80年にインドネシアの開発研究機関LSPから発刊されたアンの論文は、ジャワ村落での女性の仕事に関するものだった。手工芸品や織物など主な農村産業では女性が大きな役割を果たしていることを実地データで裏付け、地域開発には女性支援が重要と主張。こうした視点を当局者に浸透させるテキストとなった。

 

■外交官の家庭育ち

在りし日のアンについて語るジュリア=南ジャカルタの彼女の自宅で筆者写す

在りし日のアンについて語るジュリア=南ジャカルタの彼女の自宅で筆者写す

ジュリアは、父が外交官だった家庭に生まれた。保守的な家風で、幼い時から男の子顔負けで走り回り、批判主義的なところがすでに芽生えていた娘に両親は手をこまねいていたという。

映画監督と結婚し、モデルを務める傍ら、持ち前の英語の文才で社会派女性作家として主張を続けてきた。それは自分なりのジハード(ムスリムとしての努力)だった。そんなジュリアをアンは「別の星から来た宇宙人」と冗談めかした。

逆にジュリアは、米国で異人種結婚に風当りが強かった60年代にケニア人と結婚し、子をもうけ、後にはインドネシアの農村調査にいそしんでいたアンに「あたなこそ風変りな宇宙人」と笑って返した。

 

■控え目だったオバマ青年

ジュリアは、南ジャカルタにあったアンの住まいで、夏休みに訪れていた二十歳すぎのオバマと閑談したことがある。母親の脇に物静かに座っていた姿が印象的だった。

当時のオバマは、ロサンゼルスの有名カレッジに通っていたが、自分が進むべき道を見つけられず悶々としていた。アンは成績優秀な息子を自慢する一方、「お前はもう少し、野望を持った方がいいわよ」と冗談ぽく背中を押した。その言葉が今となっては印象深い。

アンは各地の農村に足を運び、何時間でも女性たちと対話した。「そんな姿勢に学ぶところは多かった」。フェミニズムはイスラムの教えと相反しないというのが持論のジュリアは、アンを思い返しながら、きょうもコラムを通じて彼女なりのジハードに挑んでいる。

ジュリアは「アンが52歳で早世せず、生きていたら」と時々思いめぐらせる。「きっと、息子である大統領の政策批判を厭わない、社会派の面倒な母親だったでしょうね」

(敬称略、【3】へつづく)

About Yoshi Maeyama

Devotee of an anthropologist, S.Ann Dunham, translated her dissertation book "Surviving against the Odds - Village Industry in Indonesia" into Japanese. Graduate student in Gadjah Mada University. http://www.myspace.com/ammaeya/blog
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